あえて介護しない。フランスにある「アルツハイマー村」見学してわかったこと。②
①の続き。
安全管理も徹底されており、敷地内に自転車や車は入れない、死角をつくらないなど、危険は排除されている。一方で、村の中には適度な坂道もある。これは、足腰の衰えを防ぐため、あえて勾配をつけているのだという。
スーパーには日々の生活に必要な日用品や食料品が置かれており、入居者は買い物もできる。金銭を支払わなくても、後日、利用料に加算して支払うので持ち去っても問題ない。
食事はスタッフが作り、元気な入居者が手伝うこともある。気が向けば、食堂でほかの入居者やスタッフと食べる人もいる。食事時間が管理され「何時だから食べてください」と言われることもない。食事を忘れてしまう人には「そろそろ食べましょうか」と誘うことはあるが、食べたことを忘れてしまった人に「さっき食べたから、もう食べなくていいんです」とは言わない。基本的には、食べたいときに食べることが可能なのだ。
特徴的な設備もある。電車のように座席が配置された箱形の部屋があり、そこは認知症の人が「家に帰りたい」と言ったときに、精神科の医師に相談した上で入るところだという。スタッフと一緒にシートに座ると、車窓に流れる景色の映像がDVDで映し出される。しばらくそれを見るうちに気分が落ち着き、「帰りたい」という気持ちを忘れるのだとか。
畠中さんが印象的だったのは、スタッフに「認知症の人が多く暮らすなかで、トラブルはないのですか」と尋ねたとき、「ありませんね」という答えが戻ったこと。その理由は、「ここでは認知症の人に我慢させることがないから」だという。
認知症の人は、怒りやすくなったり、攻撃的になり暴力をふるったりすることがある。ただ、アルツハイマー村では、そういう症状がみられる人はほとんどいない。「それをしてはダメ」と制止されたり、否定されたりすることがないため、怒りやいらだちという感情が生まれにくいからだという。
ホグウェイのほうで聞いた話だが、こうした外に出て歩き回ったり、人と交流したりしながら自由に過ごせる環境では、「寝たきりになるのは亡くなる前の3~4日、長くても5日」という。
「ホグウェイでは多くの人が最後まで元気に歩き回っていて、亡くなる3日ぐらい前になると外に出られなくなり、やがて水分が取れなくなり、静かに亡くなるのだそうです。認知症の人でも、そのほとんどがピンピンコロリで亡くなるとは驚きでした」(同)
アルツハイマー村やホグウェイでのケアは、「介護ではなく、人生をつなぐための帆走」であり、「認知症でも、発症以前に近い暮らしを営めるしくみができていると感じた」と話す畠中さん。
「日本の介護事業では、どうしても効率化や時間の管理などが必要で、そうしないと経営的に成り立たない実情があります。アルツハイマー村やホグウェイでは、あえて効率の悪い介護をしているため、日本で同じような施設をつくろうと思ったら経営者には相当な覚悟が必要であり、実現は難しいでしょう。ただ、その理念を応用し、認知症でもその人らしく暮らすためにできる工夫はあるのではないかとも、二つの村を見学して感じましたね」(同)
(川本純一)
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