人類が6万年前にネアンデルタール人から受け継いだDNAが「新型コロナウイルス感染症の重症化」と関連しているという可能性
以下リンク)
今回、ネアンデルタール人のDNAがCOVID-19の重症化を招いている可能性があることを突き止めたのは、スウェーデンにあるカロリンスカ研究所の神経学者であるHugo Zeberg氏らの研究チームです。Zeberg氏によると、これまでCOVID-19とDNAの関係について多くの研究が行われており、その中で「第9染色体と第3染色体がCOVID-19の重症化と関係がある可能性が高い」ことが分かったとのこと。その後の研究により第9染色体の影響が除外され、「第3染色体の遺伝子の一部がCOVID-19の重症化と関係している」ことが確認されました。
また、第3染色体に存在する問題のDNAには、「遺伝子配列が全長約49万塩基対と長く、遺伝子の変異率も異様に低い」という特徴がありました。このことからZeberg氏は、問題のDNAが「4万~6万年前という比較的新しい時代に、ネアンデルタール人もしくはネアンデルタール人から分岐したデニソワ人によりもたらされたもの」だと推測しました。
そこで、Zeberg氏が問題のDNAを詳しく解析し、これまで見つかった化石人類のDNAと比較したところ、クロアチアのヴィンディヤ洞窟で見つかったネアンデルタール人のDNAのうち、33個のサンプルに問題のDNAが含まれていることが分かりました。その一方で、デニソワ人のサンプルからは見つからなかったことから、DNAがデニソワ人由来である可能性は除外されました。
このことからZeberg氏らの研究チームは論文の中で、「ネアンデルタール人からもたらされたDNAが、COVID-19のパンデミックに悲劇的な結果をもたらしていることは明らかです」と結論付けました。
これまでも、ネアンデルタール人由来のDNAは現代人の健康を損ねたり、子どもを生まれにくくしたりする働きがあることが分かっていますが、今回特定されたDNAは、少なくとも以前は有益な働きをしていた可能性があります。
ヴァンダービルト大学の遺伝子学者であるトニー・カプラ氏は「ネアンデルタール人のDNAは、もともとは4万年以上前に存在していた別のウイルスに対する免疫をつかさどっていたかもしれません」と述べました。カプラ氏によると、人体がCOVID-19を発症すると、免疫物質であるサイトカインが分泌され、ウイルスに感染した組織を攻撃して感染の影響を抑制します。しかし、その働きが過剰になると正常な肺の組織まで損傷し、その結果COVID-19が重症化してしまうとのことです。
サイトカインがCOVID-19の重症化を招くメカニズムについては、以下の記事に詳しく書かれています。
世なぜ新型コロナウイルス感染症は一部の人だけで重症化するのか? - GIGAZINE
Zeberg氏が、COVID-19の重症化をもたらすDNAを、ヒトの遺伝的多様性を調べる国際的な研究である「1000人ゲノムプロジェクト」のデータベースと照合したところ、問題のDNAを持つ人が住む地域にはかなり偏りがあることも分かりました。アフリカに住む人は全くCOVID-19の重症化に関するネアンデルタール人のDNAを持たない一方で、ヨーロッパに住む人の約8%、南アジアに住む人の約30%がこのDNAを持っていたとのこと。
南アジアの中でも、最も極端にDNAの保有率が高いのがバングラデシュで、人口全体の約63%がこのDNAを保有していました。実際に、イギリスではバングラデシュ出身者が特にCOVID-19で死亡する確率が高いことが分かっています。
以下の地図では、COVID-19の重症化リスクを高めるネアンデルタール人のDNAを保有している人が住む地域が赤い丸で示されています。また、アフリカや日本を含む東アジアにある透明な丸印は、この地域で当該DNAが発見されなかったことを意味しています。
Zeberg氏はニューヨーク・タイムズの取材に対し「ネアンデルタール人のDNAがCOVID-19の重症化と強く関係している理由はまだ未解決ですが、人類の進化の歴史を明らかにすることができれば、COVID-19のパンデミックがこれほど危険なものとなった理由も解明できるかもしれません」とコメントしました。
(素人の認識習得)
« 発酵先進国日本 ~種麹の製造は世界で初めての「微生物の純粋培養」 | トップページ | 子どもの発達に必要な「歩育」とは »
« 発酵先進国日本 ~種麹の製造は世界で初めての「微生物の純粋培養」 | トップページ | 子どもの発達に必要な「歩育」とは »
コメント